そして下僕は途方に暮れる

感じるな、考えろ。

親会社の女性社長が20代だった

デキる女性社長

全国に女性の社長は50万人以上いるらしい。割合で言うと全社長の14%ほどが女性ということになる。(東京商工リサーチ調べ:2021年)
家業を継いだり起業したりする人も含まれるので、自分の周りを見渡してもひとりくらいは女性経営者が思い浮かぶ。

視察に来る親会社の社長

この話は、僕が以前勤めていた会社の話だ。
その会社は元々オーナー企業だが、M&Aである企業の傘下となった。僕のような下々の者には、親会社の詳細は明らかにされていなかったので、さして親会社に興味はなく、実際業務にも影響はなかった。

ある朝の朝礼で、「親会社から社長がやってくるので、各部署5Sを徹底しておくように」という連絡があった。1ヶ月ほど滞在するらしい。この時点でもそれほど関心はなく「どうせ子会社の社員が真面目に働いているか目を光らせにくるんでしょ」くらいの気持ちだっった。
これまでにも何人ものコンサルの先生が入れ替わり立ち替わりやってきては、匙を投げるようにぱったり来なくなったということが何度もあった。同じ状況ではないが、近い感情を抱いていた。

社長は20代の女性だった

そして親会社の社長がやってきた。女性だ。しかも20代の。(以下Y社長)
僕はこの日の出来事に少なからず衝撃を受けた。なぜなら勤めていた会社はゴリゴリの年功序列型で、上司=年上が当たり前の昭和企業だったからである。
かいがいしくY社長をアテンドする60代の社長。ひれ伏す50代以上の役員たち。目の前で起こっている何もかもが未曾有の出来事だった。

そしてY社長の物腰柔らかで合理的な人柄がさらにこの出来事を際立たせた。それまでパワハラモラハラで社内のヒエラルキーを維持してきた組織で育った僕たちは、「解放」されたような錯覚に陥ったものだ。

やさぐれ始める役員達

Y社長は滞在した1ヶ月で、それまでのスタンダードを大きく変えようとした。会議の進め方や上司から部下への接し方など、かなりのスピード感で変化していく実感があった。
僕たち下々の社員はY社長のやり方を歓迎した。これでメンタルの不調で長期間休職する社員のしわ寄せをくわなくて済む、負担が減る!と心底よろこんだ。

しかしその反面、役員達は徐々にやさぐれ始めた。
これまでルールは”自分”であり、最終的な意思決定の方法は”恫喝”だった。そんなやり方しか知らない昭和・バブル世代のおじさん達が、自分の娘くらいの上司に諭されるのだ。やさぐれるのも無理はないだろう。
そのせいでストレスが溜まるのか、喫煙スペースに占める役員の割合と滞在時間が右肩上がりになった。どの役員もタバコを燻らせながらスマホを見る目がキマっている。転職サイトでも見ていたのだろうか。

新たなる刺客

Y社長が帰ってからも、社内の改革は続いた。パワハラモラハラはゼロにはならなかったが、いざと言う時に駆け込める寺があるのは、精神的な安全につながる。
以前の体制なら、平社員が社長にメールで直訴したら直属の上司に呼び出しをくらい怒られたものだが、そんなことも無くなった。

しかし会議で使う資料は、最後まで「紙」を主張する古株役員によってオールドスタイルが継承された。1回の会議でA3用紙120枚。アホらしい。
ちなみにこの役員は、パソコン・スマホ持ち込み禁止の会議を企画した張本人で、決め台詞は「コンピューターに頼るな、勘ピューターを使え!」だった。2回目の会議で自らパソコンを持ち込みこの企画は終了した。

そして時は過ぎ、親会社から新しく社長が送り込まれることが決まった。今度は平成生まれの20代。
さすがに役員達のメンタルヘルスが心配だ。