そして下僕は途方に暮れる

感じるな、考えろ。

若いころ消防団に入っていた

防火訓練

少し前に消防団員による連続放火事件の報道があった。
犯人自らが所属する消防団の管轄での犯行で、そのうち数回は自ら通報したり消火活動に参加したこともあったと言う。これが本当のマッチポンプというのだろうか。いやシャレにならない。

この事件を聞いて、僕が若い頃入っていた消防団時代を思い出した。僕が消防団に入ったのは30代前半の頃だ。きっかけは家を建てその地域に住み始めたこと。「一生暮らしていくんだから地域に馴染みたい」と考えていたところに、地回りの消防スカウトマンがやってきて、すんなりと入団が決まった。ちなみにこれらのスカウトマンは新築物件や集合住宅の新規入居情報にやたら詳しく、勧誘も熱心だ。

消防団とは

馴染みのない方に説明すると、消防団というのは各市町村に設置される消防機関のことだ。消防団に入団する消防団員は、非常勤特別職の地方公務員という身分になるがあまり知られていない。主な活動としては、普段は会社勤めや自営業をしている「普通の人」が、火事や災害等のいざというときに現場に向かい、消防署と連携した消火活動などを行う。よく消防署員と混同されるが全くの別物。あちらは本職で、いわばプロフェッショナル。24時間専業で災害に備えている鍛え上げられた精鋭だ。火災現場の最前線にいる精悍でテキパキした人々が消防職員で、交通規制や火が消えてからの警戒活動をするのが消防団員、そんなイメージだ。

入団すると新入団員訓練がある

消防団に入団すると、まず新入団員訓練というのに参加する事になる。僕の場合は山間の運動場にその年の新入団員が集められ、丸1日訓練を行った。具体的には”基本動作”と呼ばれる行進や敬礼の仕方などがメインで、消火活動に直接関係するようなことはしなかった。地域によっては座学(講和やスライドを見ての学習)もあると聞くが、ひたすら行進や駆け足の行進などを行った。5月にしてはやたら暑く、「はよ終わらんかな〜」と心の中で毒づいていたのを覚えている。周りを見るとまだ20歳前後のヤンチャそうな子も多い。きっと彼らも同じように毒づいていただろう。しかし声や表情に出すことはない。なぜなら指導教官は”本職”の現役消防署員で精悍なゴリラのような厳つい面々だったからだ。少しでも悪態をつけば堅気相手でも容赦はないだろう。一般市民の消防団員とはいえ緊張感ある訓練だ。

普段は何をしているのか

消防団の人は普段どんな活動をしているのか?
僕のイメージは「定期的に飲み会をする」「たまに地域のイベントで放水する」「定期的に飲み会をする」・・そんなイメージだった。実際に入団してみるとほぼそのイメージ通りだった。月に一回「定例会」と称した集まりがあり、表向きは連絡事項と団員同士の親交を図るという目的だというが、実態は飲み会だった。勤め人もいるので夜の7時30分に定例会は始まる。詰所と呼ばれる消防車の車庫件事務所みたいなスペースで、連絡事項(約5分)が終わると後はひたすら飲み食いを続ける。食事や酒の手配は「会計」と呼ばれる役職の人が担当した。この会計役の人は、団のお金の管理をしていて、時には数百万円くらい扱うこともある。横領する人とかいないのか不思議だったが、あまりその手のニュースは聞いたことがない。おそらく組織内で揉み消しているのだろう。

定例会以外では、年に1回ある出初式と年末の夜警(火の用心ってやつね)が必ず行われる年間行事だ。あとは何年かに1回「消火器の詰め替え」といって各家庭から集めた消化器の中身を詰め替える作業や、消火栓の塗り直し、操法大会の練習などがあった。

火事は減っている

では火災の時は何をするかというと、基本は消防署員のサポートだ。現実的には野次馬整理的な作業が多かった。また、火が消えた後にぶり返さないように見張り続ける警戒活動もすることがある。地元の消防団なので、火災現場に一番最初に到着することが多いが、火災の状況によっては現場から少し離れたところで待機した方が良いこともある。以前田舎の狭い住宅街の現場で、一番先頭に陣取っていた消防団の消防車が「さっさとどけろ!」と本職の人に怒られているのを見たことがある。

しかし前提としてそもそも火事は少ない。消防が公表している資料でも平成20年以降火災件数は減少傾向だ。このことは僕が入団した時にも先輩から教わった。「最近は巻きで風呂を焚いたり調理をする家が減ったからのう」とその理由を先輩は教えてくれたが、実際は喫煙者が減ったことや火災報知器設置が進んだことが理由のようだ。先輩はいつの時代の話をしていたのだろうか。

入団して良かったこと

「集まっては飲み会ばかり」「火災現場で役に立ってんの?」など色々言われる(個人の感想)消防団だが、僕が入団して良かったと思うのは地域との繋がりができることだ。特によその土地から移り住んできた人にとっては、よそ者が仲間になれる絶好のチャンス。時には煩わしさを感じることもあるが、これから家を建てたり、UターンIターンで移住する人にぜひおすすめしたい。

※この記事の内容は僕の体験談で、地域や時期によっては異なることがあります。